島には古くから杉、梅、ブナ、イチョウなどの名木が少なくない。さらにこの十数年の間に有名になった巨木奇木もある。島北部の大佐渡山脈にある県有林や新潟大学演習林の天然杉だ。
県は2011年、標高約900㍍の林の中に約800㍍の遊歩道を整備し、際だって特徴がある天然杉5本には公募で名前も付けた。地を這うように枝を伸ばす「羽衣杉」、筋骨隆々の4本の幹が天を目指す「四天王杉」、その名の通りの「象牙杉」など。
その存在は地元の石名集落で昔から知られていた。遊歩道でガイドを担う地元の土屋輝秋さん(72)によると、「曲がっているから金にならない木」とされ、木材として切り出されずに残ったという。
多くの高山植物もある。心ない人が山に入れば、それらが踏まれてしまう恐れもある。土屋さんはそうした懸念を抱きながらも「多くの人に天然杉を見てもらいたい」と言う。毎冬、半年は雪に埋もれる杉たちから「厳しい環境の中での生命力やたくましさ、風格と神々しさも感じてほしい」。
遊歩道は冬季閉鎖されており、歩けるようになるのは5月半ばごろの見込み。
ガイド
土屋 輝秋 さん
初夏の訪れを告げる花の一つにトビシマカンゾウがある。その群生地として知られる島北部の景勝地、大野亀では毎年5月下旬~6月、約 50万株100万本が黄色い花を 付け、巨大な亀の甲羅を覆っていく。
ここには悲しい民話がある。 集落の美しい娘をめぐって大蛇と 鬼が決闘をした結果、止めに入った娘が亡くなり、それを悲しんだ 大蛇は娘の亡きがらをくわえて 大野亀を上って力が尽きた。その血の跡に花が咲いたという。
多くのカンゾウが自生する謎がそんな物語を生んだのかもしれない。ただ、この四半世紀、それは謎ではなくなった。多くの住民が 雑草を刈り取るなど、カンゾウの保護活動に取り組んできた成果だ。その中心を担う佐渡両津海府観光協会会長の北澤博満さん(65)は言う。「ここの自慢。一番の宝」。金山が世界遺産になれば、外国人観光客も増えると期待し、「外国人もすごく感動してくれる。カンゾウとこの景色に」。だから、ずっと残したい。
この集落の名は「願(ねがい)」だ。