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寒ブリ

佐渡牛

Vol.5

  食の豊かさを感じられる島―佐渡。

 トキの餌場にもなる水田で実った米、太陽と土壌の 栄養をたっぷり含んだ野菜や果物、サザエやアワビ、イカ、エビ、カニ、トビウオ、本マグロ、海藻などの海の幸。バターなどの乳製品や清酒も含め、さまざまな 食材とその味を生かした料理が旅人の五感を楽しませてくれる。 中でも人気の寒ブリと佐渡牛は高値が付き、多くが島外に出荷されている。

 そこには多くの人の舌をうならせる島民の努力と技がある。いただく命を大切に、そしてより輝くようにと、願いと誇りを込めた島の恵みは、その魅力をいっそう豊かに醸し出す。

船上の惜しみない努力が生む

極上の海の幸は佐渡島の誇り

 島の東、北側に口を広げた両津湾に大型定置網が仕掛けられている。晩秋から冬にかけ、海水温の低下に伴って日本海を南下するブリがしけに遭うと、穏やかな湾内に入るという。11~12月には寒ブリ漁の最盛期を迎える。

 不漁の時もある。昨シーズンがそうだった。今年もいいとは言えない。海水温があまり下がらないためか、沖でのしけが少ないためか、理由はいくつか考えられる。

 漁獲量が減っても、その引き締まった身に蓄えた極上の脂は変わらない。鮮度を保ち、奥深い味を引き出す努力を漁師は惜しまない。    

 「うち独自の鮮度管理にこだわっている」と、内海府漁業生産組合長の多田好正さん(54)=佐渡市鷲崎=は胸を張る。船上での神経締めや血抜き、最適な量の氷によって、東京・豊洲市場でも高い評価を得ているという。

 多田さんは今年8月、豊かな島の食材をおいしく食べてほしいと、「四季彩味よし」を開店した。若い頃、東京や京都で修業した板前の腕を 生かしている。店内や名刺には大きな文字で「春夏秋冬」。そこには「地元の人に地元の旬の味を知ってほしい」という願いがある。  10年以上前から内海府小、中学校にブリやマグロ、タイなどを提供してきた。「最初にその給食を食べた子どもたちは今、いい青年になり、きっと地元のいいものを理解してくれているだろう。あえて言わなくても、春夏秋冬を感じてもらっているはず」。 そうして島の誇りが受け継がれていくと信じている。

内海府漁業生産組合長
多田 好正さん

  古代から続く「幻」の佐渡牛   「和牛の島」へと発展を願う

 牛の飼育記録は古代から残る。江戸時代には鉱山の発展と田畑の開墾に伴い、役牛が増えた。1958年には島の北部に高千家畜市場が開設されると、子牛を競りに出す繁殖経営が 主流となり、佐渡は県内外の高級ブランド牛へと成長する黒毛和牛子牛の産地として有名になった。  

 肉用牛を育てる農家やJA佐渡の施設もある。ただ、高値のために島内で食べられる佐渡牛は少ない。そのため「希少」「幻」とさえいわれている。  

 現在、島内には50軒台の繁殖農家がある。後継者難といわれるが、新たに始める人もいる。元県職員の中川邦昭さん(66)=佐渡市畑野=は5年前に定年退職後、新穂舟下の空き牛舎を 借りて繁殖農家の仲間入りをした。 主に牛を診療する動物病院も開業。 まず高千市場で6頭を購入し、受精卵移植技術を活用して全国的に注目度の高い子牛を市場に出荷してきた。

 「60代になっても新しく気軽に牛飼いができることを証明したい」と頬を緩ませ、「仲間が増えてほしい」と言葉をつなぐ。牛の世話は毎日のこと。 サポートし合えれば、個人の負担は和らぐと考える。

 牛舎に運動場もつくった。餌は河川敷や農道、遊休地の草を活用し、購入する際も佐渡産にこだわる。島全体で分娩(ぶんべん)間隔や経営の改善を考え、高千市場への出荷頭数を増やしたいと考える。

 「子どもたちや多くの人たちに牛の魅力を感じてもらえる育て方にしたい」。そうして「和牛の島」へと発展することを願っている。

畜産農家
中川 邦昭
さん
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